夏の終わりになると思いだす風景がある
20年経っても忘れられない記憶の中の風景
私が引っ越ししてきて2年ほど経った頃 通勤途中の道沿いに新しい家が建った
小さくて日当たりの良い家に若い夫婦が住みだした
夫婦には幼稚園児と幼児の兄弟がいて いつも窓に張り付いて外を眺めていた
家は交差点の角に建っていたから赤信号で止まるといつも手を振ってくれていたんだよ
可愛い兄弟でお兄ちゃんが幼稚園から持って帰って来たのだろう向日葵を育てていた
とってもかわいい子達で数年後、お兄ちゃんと一緒に弟も幼稚園に通いだした
私が知っているのはこの頃までで 近くに新しい道路が開通したので
私はこの家の前を通らなくなってしまった
何年か経ってこの家の前を通った時 懐かしく思ったけど違和感を感じた
通勤帰りなので午後6時半ごろだがシャッターが下りたままで人の気配がなかった
たまたまかと思ったがその後何度か通る事があったがシャッターのついていない
出窓に猫が寂しく座って外を見ているだけで人の気配がなく お母さんが乗っていた
赤いシエンタも見かける事が無くなった
猫がいるので誰かは住んでいるのだろうが小さな子供のいる家には思えなかった
また数年経って 夏の終わり頃、この家の前を通る事があった
あの兄弟が植えた向日葵が3本屋根より高く育って茶色く頭を垂れていた
だけど、、、
庭は雑草が高く伸び車が停められている気配もなく人も猫もいない空き家になっていた
あの兄弟がどこかで元気に暮らしているといいなと思いつつ寂しさもこみ上げてきた
名前も知らない 顔も思いだせない家族なんだけれどね
私も退職して7年が経ち もうあの家の前を通る事が無くなったのだけれど
今日、あの小さな日当たりの良い家は取り壊されて更地になっているのを知り
20年と言う月日のなかで通り過ぎて行った家族と家を懐かしく思いだしている